珍味!殻つきシャコのてんぷら
  
シャコは生きてなくては価値がない
 この日の「よしのや」の夕食は、マダイ、マダコ、ブリ、スルメの刺身盛り合わせ、クロメバルの煮付け、アナゴ蒲焼き、小イカ煮、サザエの壺焼き、小エビの酢の物、茶碗蒸し、マツタケ土瓶蒸しなどに並んで、当然のごとく、大きなゆでシャコが5尾。
 ゆでシャコを前にして、どう食べるかで手をこまねいていると、おかみの政美さんが、シャコの上手な食べ方を伝授してくれました。
ハサミで殻の両脇を切り、手で背の殻を取り除いて、それから頭を切って腹の殻を除いてください。もっとも島の人はハサミなんか使わず、手で背の殻をむいて、むしゃむしゃと食べていますよ。行儀は悪いかもしれませんが、私らはそれが一番おいしいと思いますねえ」
 ぼくは頭島流に手で背の殻をひんむいて、しゃぶり食いしました。身がぴしっと締まって歯ざわりがまことによろしい。天然の甘味には気品さえあり、旨味もたっぷり。頭島のシャコは噂にたがわず抜群の美味でした。
「シャコは塩ゆでにかぎりますよ。作り方は簡単。沸騰した湯に塩を入れて、シャコをゆでるだけです。ゆですぎて、旨味を逃げさないのがコツです。時間ですか? これは勘でやってますから、何分とは言えませんねえ。それとシャコは生きているうちに料理すること。死んだシャコは身がやわらかくて、使いものになりません」 と政美さん。
 民宿の食膳では塩ゆでが定番ですが、吉野家ではときにシャコのてんぷらを作るそうです。作り方が面白い。シャコをいったんゆで、硬い背の殻だけを取り外して、頭と腹の殻はそのままにして、衣を絡ませて油で揚げるというのです。全国の浜を食べ歩いているぼくも、さすがにこんなシャコのてんぷらは食べたことがありません。
「よしのや」を辞してからも、シャコのてんぷらが脳裏から消えません。頭島からの定期船が到着する日生漁港では、有名な午後市が開かれています。その「五味の市」をのぞいていても、シャコのてんぷらのことばかり。折りよく漁師のおかみさんがシャコを売っていましたので、そのことを話すと「そこの『もやい茶屋』で食べられるよ」。
 大喜びで「もやい茶屋」に駆けつけ、メニューを見ると確かにありました。シャコのてんぷら定食1050円。目の前のてんぷらは、背の殻だけが取り除かれ、頭と腹の殻はそのままで揚げられ、まさしく政美さんが言った通りの一品。いや、このうまいこと。しっかりした歯ごたえのあとに、品のいい甘味がたちまち口中に充満してくるのです。数あるてんぷらネタの中でも、日生流シャコのてんぷらは最上級にはいるのではないか。そう思いながら、日生町をあとにしたのでした。






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瀬戸内海でシャコを狙う
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珍味!殻つきシャコのてんぷら

民宿「よしのや」の贅沢な夕食

「もやい茶屋」の殻付きシャコのてんぷら

ゆでシャコ。美味!