タイトル写真提供 : 斉藤 高根氏

魚でもなく、貝でもない

迫力あるホヤの塊
 ホヤの酢の物は、今やすっかり居酒屋の人気メニュー。でも、ぼくがその味のとりこになった二十数年前は、ホヤそのものを知らない人がほとんどでした。この奇妙な生き物は、魚でもなければ貝でもなく、産地以外でなじみがなかったのは当然かもしれません。
 ホヤは日本沿岸に約200種類を数え、食用にされる多くは、ホヤ綱マボヤ目ピウラ科のマボヤです。といっても、その横顔はまるで見えてきませんが、人類など脊椎動物の起源と進化をさぐるうえで、学問的に珍重すべき原索動物の仲間なのだそうです。
エイリアンの卵、ではありません

 マボヤは体長15センチ、にぎり拳大のほぼ楕円形で、派手な赤褐色の硬く厚い外皮で覆われています。上端に入水孔と出水孔が並び、外皮には乳房状の多くの突起があります。その外皮を切り裂くと、中に橙色の身が詰まり、これが食用になります。
 初めてホヤを見る人は、その奇怪な姿に驚き、まず食欲どころではありません。それでも、おそるおそる口にしますと、ぼくの友人たちでいえば、半分の人は病みつきになり、あと半分は以後受け付けませんでした。ホヤはそんな好き嫌いのはっきりした食べ物なのです。それでも、紀貫之の『土佐日記』にも、「ほやのつまの胎鮨(いずし)」とありますから、日本では古くから食べられていたんですね。


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魚でもなく、貝でもない
荒波でもまれるから美味
生後4年目に漁獲
ホヤの汁が隠し味
ホヤ料理

取材:野村祐三