帆船は藻場を守るため

網上げは帆をたたんで行われる
 ホッカイエビの漁期は、6月10日〜7月末、10月1日〜11月15日です。11月の某日、ぼくが早朝の野付漁港に到着すると、野付湾に
網上げでも機械を使わない
は早くも十数隻の打瀬船がゆったりと浮かんでいました。野付湾内で取材するため、小船を頼みました。船外機船の舵を握ってくれたのは、「10年前まで定置網船に乗っていたよ」という阿部貞一さん。土地の人はホッカイエビを単にエビと呼びます。
「エビ引きは朝6時から午後1時までで、2時のセリにかけるんだ。私の母親はこれの卵をゆでてから乾燥させ、うどんの出汁に使っていたんだけどなあ。今は誰も作らなくなってしまった。このうどんはおいしかったねえ」
 そんな興味ある話を続けながら、阿部さんは野付漁協組合員・山口光明さんの打瀬船に小船を横付けしました。ちょうど網上げの真っ最中。網の中にはホッカイエビのほか、カジカ類やカレイ類に加えて、名も知らぬ北の魚がぎっしり。山口さんは船上に網を広げると、魚の仕分け作業の手を少しも休めず、打瀬網漁について詳しく説明してくれました。
「港
船上に網を広げると、北の海の幸がどっさり
ホッカイエビとほかの魚介を分ける山口さん
から漁場までと、漁場から漁場への移動には、エンジンをかけて移動するけどな。網を引くときは帆を張って、風の力だけでゆっくりと走るんだ。なぜって? エビはイサザというプランクトンを餌にするんだが、このイサザがアマモの藻場に生息しているからだよ。エンジンをかけて走り回ると、スクリューで藻場を荒らしてしまうからな」
 白い帆を張り、風を動力に船を走らせるのは、ホッカイエビが生きるために必要なアマモを守るため。いい話です。
 1回の操業におよそ40分かかるそうです。潮や風の強弱と方向を判断して三角の帆をあやつり、網を引く速度を加減します。網を引き上げると、ホッカイエビのオスとメス、ほかの魚介とに仕分けします。これを一人で行うのですから、一見優雅な打瀬船の漁も、実際は生半可な作業ではないと見ました。



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通り名はホッカイシマエビ
帆船は藻場を守るため
「おれは秋エビのオスが好きだね」
頭は味噌汁の出汁に絶品